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小泉違い

2008/02/03 09:19

 



  国民自重の心

 

 日本国民の自重の精神は敗戦によ

って崩れました。他国の武力に屈す

るのやむなきに至りました日本人

は、その国民としての誇りを失い、

心の友を失って退廃に陥ったこと

は、ごらんのとおりであります。

 すべての道徳的の努力は無意味な

ものとしてあざけるという思想、ひ

たすらに官能の満足を追い求めると

いう傾向、また更に、何者かにこび

るような気持ちから、しきりに日本

及び日本人を侮りあざける風潮が起

ってきたことは、ご承知のとおりで

あります。

 ことに多少知識があって、時世の

動きに対して神経が鋭敏であるもの

の間に、この傾向が顕著であって、

その一派の人々の書いた歴史などを

見れば、いかに日本人はつまらない

国民であるかということを説くのに

努力しているかのごとくに見えるの

であります。

 そもそも、自尊自重の精神のない

国民が、他国人の侮りを受けますの

は、これは当然でありますが、ま

た、みずから重んずる精神のないも

のは、他国民のみずから重んずる精

神をも理解することができないの

で、かかる国民は、他国民に対しま

するときに、弱少のものに対しては

不遜となり、強大なものに対しては

卑屈となることは、いずれも、避け

がたいことであります。

 従って、一国民が正しい自重の精

神を堅持することは、ひとり自国の

ために他国の侮りを防ぐのみでな

く、世界の国民と国民、国と国との関

係を正常で健全なものにするうえに

おいて、欠くべからざる要件である

と思います。自尊自重の精神なき国

民は、すべての高い精神活動の落伍

者たらざるを得ないのであります。

皆さんは、五月二十七、二十八日と

いう日を覚えておられますか。この

日は、今からおよそ六十年前、すな

わち明治三十八年に、日本の連合艦

隊が日本海海戦で敵のロシア艦隊撃
滅という、絶対的の大勝利を得た
の日であります。

この日は、別に日本の公の記念日と

は定められておりませんが、日本国

民みずから、いい伝え語り伝えて、

この日の意味を年ごとに考えたいと

思います。それは、日本の運命を定

め、アジアの歴史、あるいは更に、

世界史の水路を動かしたといえる日

なのであります。(以下略)

 

「正論」平成1812月臨時増刊「日本海海戦と明治人の気概」より

 

 

小泉信三氏 明治21年(1888年)、

東京都生まれ。慶応義塾大学政治学

部で経済学を専攻する。卒業と同時

に教員に採用される。大正元年、イ

ギリス、ドイツフランスに留学。

5年に帰国後、教授に就任。昭和

8年から22年まで慶応義塾長をつと

める。同24年、東宮教育常時参与。

34年、文化勲章受章。同415

月、78歳で死去。著幸に『小泉信三

全集』28巻(文豪春秋)などがある。

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